短編23期感想、好きなものだけ。お名前は括弧書き、敬称略で失礼しております。
なんというか、内容もそうとう失礼だと思います…が、できるだけ思ったようにそのまま書いてみています。

1 常世で自分の心臓に会った話(三浦)

  1パラの言葉の感触が好き。今期の作品中で、この作品の1パラが一番リズムを感じた。
  その魔力を使い切るところまでで、すっと引いて終えたというような感じ。やっぱリズムかなあ。
  むやみに短いわけではないと思うわけですけど、読後、すとんと来た感はあまりなかったりした。
  解釈しようとしないと、よくわからなかったっていうのもあるとは思います。

6 うまく笑うことができなかった(逢澤透明)

  お使いの子供については微妙で、あちこち気になって引っかかるんだけど、うまく笑えない『俺』にとにかく好感。
  携帯〜彼女の前に姿を現す、っていう数本のフラグの選び方が、私にはあまりピンとこなくて、
  でも読んでる気持ちは持ち上がって降りてきて落ち着く。彼らは上ってく。その流れはきれいで、「ばかにするな」もとてもよかった。

11 コードレス(野郎海松)

  タクミの所作の端々がすごくイマジナブルだと思う。しかも彼の言葉がしっかり重い。
  文章にムラを感じない。わざわざ外したりしないっていうか、そうしなくても平気ってことなんだと思うので、そういうところもいいです。
  彼はバイクで走ってる間、当然一人で、そのピザを届ける先は様々だろうけど、受け取り先にいる人間は大体は複数で、大方家族がいてるわけですよね。
  そういうの毎日やってて、だからはっきり問えることかもしれない、「生まれながらに…」っていう台詞には、ドンと揺さぶられた。

17 薄暗いバーにスカイブルー(神差計一郎)

  話としても映像としてもうつくしいと思う。モノトーンやセピアの情景の中でこそ映えるっていうのもあると思うんだけど、
  スカイブルーってのは、センスなんじゃないかなあ。悲しみに余計なものがない感じ。

18 海から(川野直己)

  落ち着いて読むほど、やや引き回される印象。そこで小首を傾げるんだけど、理屈よりも感覚が文章を好きなので、ついていってしまう。
  どうしてよいのかわからないとき、実際目を瞑ったりしてられないと思うんだけど(くちあけて見ちゃうよ)、そういうのって眩しいので、眩しいのかもしれないなとか。
  もしかしたら、そんなことどうでもいいのかなとか。いろいろ変に考えれば考えられると思うけど、これが書かれた根っこには私はたどり着けないのかもしれないなと思った。

21 カンナの咲く道(真央りりこ)

  大好きです。この小説に必要なスイッチだけを入れてくれて、読んで、どうですかっていう感じで。
  日常から逸脱しない話で、穏やかな展開のしかたで、難解でなく、あたたかいです。足りないものを考えたりする気にならないから、ほめっぱなしです。
  カンナの茎とか葉って、女の人の肌っぽい気がする。そういう(感触に訴える)意味でも、女性的って言えるのでは。
  お味噌の匂いもそうですよね。全身で話に入っていけた。ほんと好きです。これは。

22 お金の話(海坂他人)

  すとんと入ってくる。淡々とした言葉に隙がない。しかもそれが納得できる方向へ、いい方にいい方に行く。
  で、すとんと終える。すごいのは、何度読んでもそうなることだと思います。
  作品自体が、自分から安定する位置を見つけてしまったような感じはあります。ほどよくピラミッドのあのへんというような、あまり頂上君臨しようと思ってなさそうな、
  そういうとこが好きなんだけど、それが理由で手放しでほめにくい。

24 竹とんぼ(瑕瑾)

  現実的かと思っていたらすごく夢見がちな人っていると思うんだけど、そういう人のこぼす雰囲気みたいなものを感じた。
  真っ直ぐ話に入っていったら、そうかあ。で落ち着いてしまって、深読みのしかたも私にはわからなかったので、素直にぼんやりと読んでぼんやりと考えた。
  私、読者として期待されるレベルまで行ってないかな。とりあえず、気配がある話です。それがあるから書いてると思う。感想。
  「負けばっかで…」のくだりは、確かに子供の頃こんな感じだったなあと思いだした。多分私は芳蔵のような子を連れ回すほうだった。
  それか、ひとり遊びをしてましたけど。って書いてしまうくらいなので、その気配は自分の子供の頃かもしれない。

25 月の階段(川島ケイ)

  いきなりなんだけど、1パラいらないかもしれません。えっ。いえ、もしそれで話を構成したり説明できさえするならばなんだけど。そんな無茶な!わあ。すいません。
  で。「この階段が…」の直後、一緒に息を飲んだ。そこでものすごい共感というか、勝手なシンクロがあった。
  作品に書かれた感情が、読んでいると同時に、まるで実際に感じるように心を全面的に占拠して、やがて終わって、塊が去ってった。
  そんなことがあったのは、この作品だけでした。

28 落日の機械(曠野反次郎)

  壮大なイメージといっても、作中の人のイメージだから、大分遠いというか、階層が深い。肉付けしていったら、映画っぽいと思う。
  正直感想がうまく出てこなくて、もしかしたら映像担当の脳で読んでしまったかもしれないです。
  ゴンドラの音の描写が一つもなくて、それって意図的なことなんでしょうか。
  小さいほうはまだカタカタやキリキリかもしれないけども、大きいほうは多分ギリギリいうし、そのうち街を載せるほどになったら、寺の鐘みたいに、ごうんごうんて鳴るかなあ。
  途方もない大きさを、大きさという言葉以外で表されていたら、どうだったろう。弄りすぎになっちゃうのかもなあ。

以上です。